【参考にしてね】大学院での研究生活(博士編)

大学院

こんにちは理系博士のTKGです。前回は修士課程とその研究生活についてお伝えしました。今回は,博士課程についてです。

修士課程1年の終わりが見え始めた頃,進学するか就職するか悩む時期に入ります.周りの大勢は就活をしています。もちろん初めから博士を希望の方もいるとは思いますが、それでも進学するか迷うと思います。博士課程は学部や修士の延長のように思われがちですが,半分正解で半分誤解だと考えています.

修士課程まではまじめに研究して修論を完成させればほとんどの学生が卒業しできました.しかし,博士課程では状況が一変します.博士課程は努力を評価されるのではなく,結果を重視されます.ですから、ただまじめに取り組めばいいというわけではないのです.

今回は博士に進学しても大丈夫か心配なあなたの(過去の自分の)疑問に答えられる内容にしたいと思います.また,この記事の読者は修士課程に在籍または卒業した人を想定しているので,そもそも修士課程ってなんぞやという人は前回の記事をご覧ください.

博士の活動概要

  • 進学をきめる
  • 入試(口頭諮問)
  • テーマ選定
  • 研究
  • 学会発表・ジャーナル論文執筆・投稿
  • 博士論文執筆
  • ディフェンス
  • 公聴会

進学するか,しないのか,その理由を明確に

今回あえて博士過程の活動リストに進学するかしないかという進学前に考えるべきことを入れました.以下に理由を述べていきたいと思います.

博士への進学は大変に悩む人が多いと思います。はるか昔であれば,「末は博士か大臣か」と言われるほど優れていることの代名詞でしたが,昨今においては高学歴ワーキングプアが問題視されていることからもわかるようにその地位は著しく低下ています。大学院重点化による定員増加による質の低下など原因はありますが,詳しい話は今回は割愛します.

誰が言ったか,足の裏の米粒,取らないと気になる。しかし、とっても食えない。

このような状況において博士号を取得する理由について自身の中で十分に吟味する必要があると思います。博士課程は孤独です.なんとなく頑張ることに限界が訪れる可能性があります.修士のとき指導教官に言われました.「博士にいきたいなら,理由を考えなさい.なんとなく始めたのなら,何となくやめるでしょ?なぜ研究を続けたいか考えてみなさい.少なくとも人には説明できるようにしなさい.」そういうお題を出されたことがありました.研究が楽しくて仕方のないときはそれでもいいのですが,やはり,壁にぶつかります.そんなときに夢や目標がないとがんばれないそういう世界なのです.

入試

博士課程の入試は口頭試問であることが多いと思います.すべての大学を知っているわけではないので少なくとも私の出た大学との前提になりますが,修士の時までの研究内容を先生方の前で発表し,それに続けて,合格後に従事したい研究テーマについて発表します.この時点ではこれまでの研究の中身についての理解度や技量など,つまり博士課程に入学たりうる人物であるかをみられます.これまで真面目に研究に取り組んでいてよほどトンチンカンな質疑応答でない限りは大丈夫だと思います.そもそも,指導教官のお墨付きでの試験になるので,基本的に指導教官が周りの先生になんとかしますといえばOKと理解しています.(このあたりは,教員になったことがないので私見です.)しかし,外部からの場合はそれなりに資質を問われると思います.博士の入試で落ちるようなことがあれば,スッパリと研究の道を諦めるのがいいと思います.

簡単なように聞こえますが入学させたはいいが卒業できない人を量産するような研究室であれば,指導の質を疑われるのでそのようなことはできません.受け入れ以前に振るいにかけられていると理解をしてください.

博士課程の心構え

研究というのは,まだ答えのないある事象に対して仮説を立て,道具を揃えアプローチし,結果からその時点で妥当と考えられる結論を導く活動と考えます.その中で博士号を持つということは,前記の事柄を自身の力で完結させることができる証明を得ることに他なりません.独自のテーマ選定を行い(修士の続きの人が多いですが)独自のアプローチで問題を解決する.解決するまでがゴールになります.しかもその手法ないし結果は既存にない結果(あるいは結論)つまり,世界初でないとなりません.できませんでしたも,誰々の実験を再現しましたもダメなのです(証明しましたはOK).先程,博士過程は孤独と言いましたが,これらの自力でやることが原則で,そもそも独自のテーマで独自のアプローチであるなら,相談できる相手も少なくなります.いろいろな人とディスカッションすることにより解決の糸口を見つけていくことは大切ですが,あくまで自分でやります.困っているからといって周りは助けてくれません.

どのくらい大変かというと,よく社会に出ると厳しいといいますが,私は必ずそうだとは思いません.企業は利益を得ることが目的なので,誰かが困っていれば組織として解決を試みます.つまり,誰かが助けてくれます.もちろん出世競争などで足の引っ張り合いはあるかもしれませんが,あくまで組織としてはその一人で損失が出るよりもみんなで解決を図り,利益を最大化しようとするからです.一方で博士課程では,その研究がうまく行かなくても誰も損をしません.修士の時までのように先生のテーマをもらっているわけでもないので,そのテーマが進まないでも誰も困りません.つまり,誰も助けてくれません.もちろん気の優しい助教とかが気にかけてくるなんてことはあるかもしれないですが,あくまで善意で見るに見かねて助けてくれているだけなのです.そんなことを期待するために博士課程に来るのではないことを忘れないでくださいね。

博士過程のテーマ選定

正直言って、テーマ選定とそれに続く研究計画が肝です。これが博士課程の最重案件です.ここを間違えると彷徨います.独自のテーマと言っても難しすぎると3年という枠には収まりませんし,かといって簡単すぎるとオリジナリティを欠いてきます.オリジナリティと実現可能性のバランスをうまく取ることが重要です.テーマを決めるために爆速で論文を調査して既存の研究とこれから行いたい研究の差異を明確にして,これから行う研究の何が面白いのかを明示する

少しイメージしやすくすると,博士論文を書くとき少なくともその分野のそのテーマのこの部分においては,自分が誰よりも理解しているという状態を目指すのです.私が博士課程に入るときボスにテーマの相談をしたところ,「何でもいいよ」と言われました.いや何でもいいことはないだろうと思いましたが,ボスは続けました.「テーマは転がっているから考えてみな.それにこれから博士を取るのは君だ.僕じゃない.テーマを決めて,君が僕に教えられるようにならないと博士はとれないよ.」こう言われて初めて,あーこれが博士課程に入って博士を目指すということなんだと理解しました.

博士課程でもテーマを与えてくれる優しい先生はいると思いますが,私はそれは反対です.少なくとも修士からの持ち上がりのテーマであったとしてもそこからどうやって研究にオリジナリティを持って展開させていくかをやってのけてこそ博士なのだと私は考えます.

博士課程の研究

修士のときと違いがあるとすれば,論文を読む量が圧倒的に増えると思います.試しに研究室にある先輩博士の博士論文を読むとわかりますが,圧倒的な文章量のみならず参考文献の量が半端ないことに気づくと思います.修士のときは言われたこと(アドバイスされたこと)を早く正確にやることで十分でしたし,先輩のテーマを引き継ぐことが多いと思います.先輩の修論を見ればどの論文を読めばいいかおおよそわかります.博士課程では自分のテーマで独自の視点で研究を展開していきます.その手法や論点に妥当性があるかを検証していくためには先人たちの結果を知る必要があります.一つ一つに証拠が必要なので必然的に参考文献が増えます.つまり,論文を読む量が圧倒的に増えるのです.冗談抜きでダンボールいっぱいになるくらいの量を読むことになるでしょう.(最近は電子データなのでそうでもないかもですが.)

学会発表・ジャーナル論文執筆・投稿

当然,研究が進むと学会発表をします.よっぽど突飛な発想の研究でなければ修士の時までに経験した学会発表とあまり変わらないと思うので,あまりハードルは高くないと思います.違うとすれば質疑応答の対策はこれまでよりも真剣に取り組む必要はあると思います.学会発表等で質問があればラッキーです.興味を持ってもらえたということですし,研究をアップデートできるからです.結果がまとまってきたら,ジャーナル論文の準備をします.優秀な人は実験を始めるときにジャーナル論文を意識してどのような実験を行うべきかを考えますが,博士課程に入ってすぐにそんなことは誰も求めていないでしょう.心配しないでください.化け物じみた人以外は論文を書くだけでも1ヶ月とか?それ以上かかるのではないでしょうか?特に図の準備や修正は時間がかかりますし,最近の研究は共同研究者がいることが普通なので,それが他大学などの場合は,その先生方にコメントをもらいつつ修正を重ねていきます.論文の信頼性を上げるために一語一句誤字脱字ないことを確認する作業も時間がかかりますし,参考文献をまとめることもなかなか大変です.僕自身ジャーナル論文への投稿はそれほど多くないのですが,普通はちょっとレベルの高いジャーナルに投稿して,おそらく最初はリジェクトされると思います.修正と他ジャーナルへの再投稿を経てアクセプトされれば,ジャーナルへあなたの論文が掲載されることになります.ジャーナルによって投稿からアクセプトまでの期間は異なりますが,めちゃくちゃ早くて1ヶ月程度,普通は数ヶ月かかると思います.博士課程では少なくとも3報の論文要求されると思いますので,逆算してどのくらいのペースで論文を執筆すべきかを考えてみてください.意外と時間がないことに気づくはずです.

博士論文執筆

博士論文の構成イメージとしては,だいたい5章か6章構成で,緒言や結論の章が最初と最後に入るのを除いた,間の2−4章あたりがジャーナル論文1報に相当すると考えてください.博士論文の難しいところは,ジャーナル論文のそれぞれが必ずしも一つ研究テーマを完全につなげるものではない場合が多いことです.通常3年間という限られた時間の中で実験して,論文を投稿してとしていくわけですが,論文化できる結果がかならずしも望んでいた形になっているかというとそうでもありません,また,たった3年間で当初の目的を完全に達成できるわけでもないので(今思えば当たりませですが),その時ある結果のみを淀みなく一つの博士論文にまとめるという作業がこの上なく大変なのです.そして文章量が半端ないので大幅な修正夜余儀なくされた場合は本当に死にものぐるいです.数ヶ月は笑顔なんて忘れるでしょう.ユンケルでタワーができます.そのくらい膨大なエネルギーを必要とします.これは,その人が優秀であろうがなかろうが等しく訪れる試練です.

博士論文は人生でも貴重な一冊なのですがそれにこだわりすぎると危険です.完璧を求めるあまり博士論文の執筆が進まなくなるのです.かくいう僕もその一人でした.期間内に成果を出すことも重要ですが,今ある結果で論文をまとめ上げる力も博士の腕の見せどころと割り切ることも重要です.

ディフェンス

一般に研究者がディフェンスがあるとかいう場合は,何かの審査会とか科研費の報告会みたいなものがある場合を指します.研究発表と何が違うかというと,ディスカッションするのではなくひたすら相手が納得できる回答を行うのです.言葉の通りディフェンスするのです.ひたすら防御.間違ってもオフェンスはしてはいけません.最悪,レッドカードです.このような場では相手が審査しているので,相手の疑問を解消することで自分の研究の妥当性や意義を納得してもらう場であって,相手を打ち負かす場ではありません.例えば,出資者を言い負かしても最悪出資が打ち切られるだけです.そうではなくてあらゆる質問に対して丁寧に説明するのです.入念な準備が必要です.博士論文が通るか通らないかの最重要局面になります.受け答えが十分にできないのであれば,その部分いついて再考するように言われるでしょう.するとどうなるか?博士号取得は延期になりまた半年か1年準備に費やさなくてはなりません.反対にうまく相手を納得できれば内容が多少不足していても,論文に考察を追記するなど軽微な修正にとどまる可能性が高いです.

公聴会

この審査会が無事終われば,公聴会の日程を決めます.公聴会は通常,いつ,どこで公聴会を開催しますと掲示をし広く聴講者を募ります.基本的に誰でも参加できます.異なる専門の人がいれば同じ現象でも違う見方をしてきます。これが厄介で相手からすると簡単な質問でも,ん?となったりします.ここで焦らずうまく答えられないと,コイツは本当に審査会通ったのと疑われかねません.準備は入念にこしょたことはないのです.

公聴会が無事に終われば博士論文を製本して大学に提出します.製本したものは特にお世話になった先生や先輩,共著の方などに配ります.費用はすべて自費でまあまあの金額になるので事前に調べて準備しておくことをおすすめします.また,博士論文は国会図書館に書蔵されます.一生残ることになるので恥ずかしくない論文になるよう心がけましょう.

まとめ

さて,ここまで博士課程がいかに大変かを説明してきましたがもちろんメリットだってあります.一つは公聴会が終わったあとの達成感はなかなかのものですし,やはり,博士を名乗れるのは博士号を持つ人だけなのでちょっとした自信にもつながるでしょう.最も大きなメリットは,思考のプロセスが一般の人よりもかなり論理的になっていることを感じるはずです.これはその後の人生において強力な武器になると思います.また,博士論文を書き上げた経験は下記の能力を示すに等しいと考えます.

  • 問題を抽出して能力
  • 問題を整理する能力
  • 問題を自分の守備範囲に落とし込む能力
  • 解決方法を提案する能力
  • 解決までの道のりを示す能力
  • 解決までやりきる能力
  • 結果をまとめる能力

これらの能力は業種などに関係なく普遍的に役に立つ能力である一方,これらの能力を総合的に持っている人は特別優秀な人を除いてあまりいないのです.社会に出てみるとわかりますが,優秀な人は少ないです.ただ勘違いしないでほしいのは,これらの能力が身についたから優秀な人材であるというわけではなく,博士論文を書き上げる頃には普遍的に役立つ能力を身に着けているという意味です.これをどう活かすかはあなた次第なのです.

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