【要約と感想】理科系の作文技術 木下是雄 著 【今読むべき一冊】

一般

今回紹介するのは、中公新書から出版されている「理科系の作文技術(木下是雄 著)」です。1981年に出版され重版を重ねて100万部以上売れているこの名著にはじめて出会ったのは大学院の修士課程の時でした。とある講義の教官に“理系なら少なくともこれは読んでいて当たり前だ”と言われたのですぐに買ったけど最後まで読んでませんでした。。。久しぶりに読み返したら評価に違わぬ素晴らしい書籍だったので紹介したいと思います。

まずこの本の対象ですが、著者いわく、理科系と書いてあります。

が、実際には仕事の文章一般に通じることと思いますので、自分は関係ないと思っているあなたにもきっと役立ちます。

この本のいいところは、理系の作文(報告書や論文等)における心得みたいなところから、実際的な技術までをまとめてあり非常に役立つところです。一度通して読むだけでもあなたの作文技術がレベルアップすること間違いなしです。ちなみに内容が自分にはちょっと難しいと感じる人は、漫画版もあるのでそちらをお勧めします。僕自身も一度読んでみましたが漫画版といっても内容に遜色はないように感じました。むしろサラッと読み進めることができるのでまず漫画から読むのもいいかもしれませんね。
それでは、本書のとくに大事な部分だけを要約していきたいと思います。

チャーチルのメモ

この本はチャーチルのメモから始まります。このチャーチルの話にこの本の全てが詰まっていると言っても過言ではありません。とりあえずここだけでも読めば技術うんぬんは置いておいてもためになると思います。イギリスの首相であったウィンストン・チャーチルは映画でも描かれている有名な人物です。このメモをまとめると下記のようなことが書いてあります。
彼らの職務を遂行するには大量の書類を読まなければならないが、その書類のほとんど全てが長すぎる。時間が無駄だし、要点を見つけるのに手間がかかる。
続けて下記の4つを提言しました。
ⅰ. 報告書は、要点をそれぞれ短い、歯切れの良いパラグラフにまとめて書け。
ⅱ. 複雑な要因の分析にもとづく報告や、統計にもとづく報告では、要因の分析や統計は付録とせよ。
ⅲ. 正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し、必要に応じて口頭でおぎなった方がいい場合が多い。
ⅳ. 次のような言い方はやめよう:「次の書店を心に留めておくことも重要である」、「・・・・・を実行する可能性も考慮すべきである」。この種の持ってまわった言い回しは埋草にすぎない。省くか、一語で言い切れ。
荒っぽく見えるかもしれないが、時間は節約できるし真の要点だけを簡潔に述べる訓練は考えを明確にするのにも役立つ。

著者はこのチャーチルの話から、理科系の仕事の文書の特徴は読者に伝えるべき内容が事実と意見に限られていて、心情的要素含まないことだとまとめています。

つまり、要点だけを短くまとめて余計なことは書かない。これが仕事上での良い文章なのだということですね。“人の心を打つ”とか“琴線にふれる”みたいな文章とは性格が異なるのが理科系の仕事の文章との理解でいいと思います。

重点先行主義

文章の組立てと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?例えば、“起承転結”であれば、あー聞いたことある。とほとんどの日本人であればなると思います。それもそのはず、中学か高校くらいで漢詩を習った時に出てきますよね。そしてその後の教育の中でも折を見ては、誰か(教員)がいうのです。起承転結が大事だと。ところが、いやいや待ってくれと。仕事の文章では重点先行主義こそが重要じゃないか、というのが著者の意見です。

重点先行主義を一言でいうと、要点や結論は最初に書きましょうねということ。 
例として分厚い学術雑誌では、読者はまずタイトルと著者抄録を見てその論文を読むべきか決めることにも表れています。論文もただ書けばいいわけではなく読まれてたくさん引用されてこそ評価がされますからね。もちろん、もっと一般的な仕事の文章としても、表題は、的確に内容を示す具体的なものでなければならないし、書き出しの文を読めばその文章に書いてある最も重要なポイントがわかるように配慮すべきだと著者は述べています。

この見本となるものは新聞記事で、最初の数行で重要な部分がまとめられています。つまり、忙しこの日常生活の中で、読者がこの文章を読むべきかを的確に判断でき、また、その最も重要な部分がわかるようにすべきだと述べているわけですね。

上記のことをもっと日常に落とし込むとすると、日々のメールや作業報告書などはどうでしょうか。どうでもいい前書きがつらつらと書いてあり、要点がどこかもわからない文章を読まされるとしたら、忙しいビジネスパーソンにとってはイライラさせられるものがありますよね。意外とみなさん経験があるのではないでしょうか?

この本が書かれた80年代はわかりませんが、私は少なくともこの重点先行主義は現在では一般的なものとして受け入れられているように思います。

パラグラフ

本書で要点なるのは、パラグラフについてです。みなさんも見聞きしたことがあると思いますが、パラグラフは日本語の文章の段落のようなものと考えてください。(厳密には違いますが。)パラグラフを最小単位としてつなげていって節ができ、さらに章できるイメージです。そして、パラグラフの中には、何について書きたいのかを概論的に、一口にまとめたトピックセンテンスが必ず一つ含まれていて、それらに関係のない文やトピックセンテンスで述べたことに反する内容を持った文を同じパラグラフに書いては書いてはいけません。
本書では例文を交えてパラグラフの重要性とその効果をわかりやすく説いています。しかしながら、私の感想としては、本書だけではパラグラフライティングの全容を理解することは難しいと感じます。パラグラフライティングに特化した書籍は、他の著者から出されているのでそちらを参考にすべきだと思います。
本書にも簡単に触れられているが、欧米ではこの文章の書き方に関する授業が学校教育の中にあって必修となっています。つまりこのパラグラフにまとめて書くことは事実上世界標準の文章の書き方なのです。かくいう私はパラグラフライティングに関しては、きちんと勉強したことがなく、大学院では見よう見まねで文章の書き方を学んでいました。もちろん、それなりの文章を書いていたつもりですが、この本にもっと早く出会って入ればパラグラフライティングについてもっと構造を理解した上で、これまで書いたたくさんの文章と向かい合えたと思うと悔やまれます。

文の構造と文章の流れー逆茂木型ー

本書で個人的に興味深いなと感じたのは、この逆茂木型(さかもぎがた)の文について書かれた節です。本書で紹介されるレゲットという物理学者いわく、“日本語では、いくつかのことを書きならべるとき、その内容や相互の関連がパラグラフ全体を読んだ後ではじめてわかる。極端な場合には文章を全部読み終わってはじめてわかるような書き方が許されているらしい。”と述べたことを紹介しています。英語ではこれは許されず、一つ一つの文は、読者がそこまでに読んだことだけによって理解できるように書かなければならないというのです。
著者は日本語の文章が逆茂木型になりやすい根本原因について、英語と日本語の文の構造的な違いに原因の一端があると分析しています。つまり、英語では、長い修飾句や修飾節は修飾すべき語の後に来るのに対して、日本語では、修飾句や修飾節が必ず前置され、また、この文法的な習慣を文章の構成にまでも引きずっているために、さらに理解の難しい文章になっていると言っています。

事実と意見

編集中。少々お待ちください。

読みやすさへの配慮

個人的にもっとも読んで欲しいのは読みやすさへの配慮の章です。特におすすめしたいのは、

  • 字面の白さ
  • 受け身の文

に関して書かれた箇所です。
字面の白さとは、つまり漢字の使い過ぎは読みにくいですよということ。私が思うに最近はみなさんPCで文書をかくことが増えたと思いますが、自動予測変換で漢字が当てられるのでそれをそのまま使いがちだったりします。例えば、こんな文があったとします。

ブログを書くにあたって、兎に角、文章の良し悪しに拘らずに気軽に書き始める事が大切だ。但し、書いた後に文章を推敲する事を忘れてはならない。

みたいな文章があったとして。すごく違和感を覚えないでしょうか?こんな漢字ふだん使わなくね?となりませんか?少なくとも僕は違和感を感じるし、この文章を書いた人はあまり本など読んでこなかったのかなと、教養を疑ってしまいます。

著者の標準記法にしたがうと先の文章は下記のように書き直せます。

ブログを書くにあたって、とにかく文章の良し悪しにかかわらずに気軽に書きはじめることが大切だ。ただし、書いた後に文章を推敲することを忘れてはならない。

とこんな感じになります。どうでしょう?見た目がすっきりして、柔らかい感じになりませんか?

また、著者はこうも述べています。
「報告書、論文、その他の理科系の仕事の文書は、中身が充実して価値の高いものであればあるほど、誰にでもスラリと読めるように書いてもらいたいものだ。」
つまり、やたらと予測変換して出てきた漢字を使いまくるのは、読みにくいだけだからよしましょうということと理解してください。標準記法については、本書の中で著者が原則こうするといいよ、というのをまとめてくれているのでぜひ参考にしてくださいね。これは今からでも使えますよ。

次に、受け身の分についてです。これは、理系あるあると思うのですが、「‥と思われる」、「…と考えられる」がやたらとでてくるレポートや論文に出会ったことはありませんか?もしくは、あなたが書いていませんか?
これは、単に「…と思う」とか「…と考える」というふうに主体を<私>と書き直すことができます。欧米諸国ではこの受身文章は、「誰がそれをしたのか」、「誰がそう考えたのか」がぼやけてしまうため、“責任回避的だ”と捉えるように変わってきたといいます。なんなら“I”を使うことを推奨することもあるそうです。なので、著者は理科系の仕事の文章では受身の文は少ないほどいいと信じ受身討伐をしていると述べているのはとても面白いですね。

Amazon、kindle, 楽天books、hontoなどで読むことができます。

ここまで読んでいただいて、どうでしょうか?
ここにまとめたのは、あくまで僕が面白いとか、参考になったと感じた部分だけを簡単にまとめました。本書は実際にはもっとたくさんの内容が書かれています。また、わかりやすい例文がたくさん載っていて、濃くて含蓄に富んだ内容の本になっています。電子書籍としても入手可能ですし、もちろん書店にも必ず置いてあるでしょう。これはもうベストセラーですから。
本当に本当にみなさんには一度読んで知的な文章の書き方を学んでもらいたいと思います。

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